岩塩

ナクルに住み始めて1年。週末しか出ないとは言え、ナクルのタウン
もだいぶ歩き回ったつもりだった。



その店は、中距離ミニバスの停留所の前にあり、その付近はいつも
ミニバスの乗客やその客引き、乗客目当ての果物売り、そして私の
ようなただの通行人でごった返している。

「ナイロビに行くのか?」と英語で話しかけてくる客引きに、
「ジャンボ!ジャンボ!」と適当に返答しつつ、いつもどおりその店の
前を通り抜けようとした時、ふと、私の目に薄いピンク色の物体が
入り込んで来た。

数メートル行って立ち止まる。今のピンク色は・・?

通り過ぎた店の前にもういちど戻る。
野菜の種や農薬、家畜用の薬などを売る小さな商店。
Agro & Vetという種類の店だ。

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ピンク色の物体は、狭い店の狭いカウンターの上にある。
幅はゆうに20cm以上はある。近寄って正体を確かめる。


やっぱり。岩塩だ!

「これ、塩ですか?」と尋ねる。外国人が来る店ではないだろうに、
店主は塩を指先に乗せて、「パキスタン製の岩塩だよ。牛に食べ
させると牛乳がおいしくなるんだ。」と
丁寧に答えてくれる。

パキスタン製!ヒマラヤ岩塩!ネパールを旅行した時、とても
おいしかったので
2kgほど抱えて日本に持って帰った。

「ケニアでは人は岩塩食べないの?日本では人も岩塩を食べるよ。
ミネラルがいっぱいで海塩よりも甘くておいしいよ。牛が食べるだけ
なんてもったいないよ。」と言うと、店主もお客さんも笑った。

店主の脇で小さく座っていた、彼の父親らしい老人はスワヒリ語が
わからないらしく店主がキクユ語で説明をしたら、老人も嬉しそうに
笑い、
一生懸命スワヒリ語を使って私に話しかけてきた。

値段は1kgで60円と格安。

「1kg下さい。カナヅチで割ってもらえますか?」と聞くと、店主は店
の奥の床でガンガンと塩を割ってくれた。

その様子を見ながら、
そういえば隣のおばさんが殺鼠剤を購入して
いたのを思い出し、
ニコニコと袋に入れてくれた店主には申し訳ない
が、次回からは自宅で割ろうと思った。
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普通に使える大きさになるまで砕いたりと手間はかかるが、
やはりこの甘みには替え難いものがある。

まさかこの値段でナクルでヒマラヤ岩塩が手に入るとは。
幸せがひとつ増えた。












上の写真はモンバサから北上する道沿いにある塩田。
海塩は味にカドがあるのでやはり岩塩の方が好き。

猛禽あらわる

ナクル湖国立公園では520種の鳥類が観測できるとされている。
その内訳は水鳥450種と陸鳥70種。

公園の敷地内で働きながら、湖に行く機会の少ない私にとって、
水鳥の観測は容易ではない。事務所から観察できる鳥類といえば、
ツバメ・スズメ・ツグミ・モズなどの小型鳥類がもっぱらである。

しかし、以前も書いたように、去年の11月、乾季が始まった頃から、
事務所や自宅の近くでもいろいろな陸鳥が見られるようになってきた。

そしてついに本日、今まで見たことがなかった猛禽が出現!
乾季になり、下草が枯れ、猛禽にとってはネズミなど小動物の狩り
がしやすい季節になったのだろう。

事務所の台所から出るゴミをあさるのネズミを狙って現れたのは
Long-crested Eagle(Lophaetus occipitalis)。頭の上の長いとさか
が特徴で、風によって後ろになびいたり、前に垂れたりするので、
それによって勇ましくも情けなくも見える。
Long-crested Eagle
ちなみにケニアに来てこれまで見た猛禽はこれでなんとわずか
6種(ハゲワシを除く)。Fish Eagle、Eastern Pale Chanting
Goshawk、Augur Buzzard、Black Kite。なんとも寂しい数字。
(Eastern Pale Chanting Goshawkのみツァボ・ウェスト国立公園
で観察。それ以外はナクル湖国立公園で観察。)

Long-crested Eagle今後、エデュケーション・センター付近に
頻繁に現れるようになる。

ケニアの”肉”の話

※今回の記事には、菜食主義の方には不快となる写真や文章が
  含まれております。ゴメンナサイ。

ケニアにはイスラム教徒とキリスト教徒がいる。

ご承知のとおりイスラム教徒はハラル・フードしか食べられないが、
キリスト教徒は牛、羊、ヤギ、鶏、●▲×■など、なんでも食べる。

ケニアでは、日本のようにきれいにスライスされパックされて売られ
ている生肉を見たことがない。スーパーに行くとチルド・ケースに
大きな肉が陳列されており、重量を指定して買う。あるいはパック
された冷凍肉を買う。

お金持ちをのぞいて、大方の人は、スーパーではなく肉屋で肉を
買う。肉屋に行くと、窓際に牛やヤギが吊るされており、店員に
重量を言って切ってもらう。一般的に最小単位はクォーター・キロ
グラム(=250g)だが、「○○円分ちょうだい」と言うとその金額分
だけ切り分けてくれるらしい。

私はもともとそれほど肉は食べない上、250gはひとりで食べる
には多いこともあり、ケニアに来てからは数回しか肉を買っていない。

たまに職場で昼食が出ることがあり、そういう時には肉が食べられる。

たまに無性に肉が食べたくなる時があるが、なかなか買いに行け
ないので、外食する際には、特に食べたくなくても肉を食べるよう
にしている。

ここ最近、無性に肉が食べたくて、客人のあった2日と11日、
思い切りラム肉を食べた。(両日ともつけあわせはマッシュド・ポテト。)

写真まで撮ったくらいだから、よほど食べたかったんだろう。
これでしばらく肉は食べなくても大丈夫・・・
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えも言えぬ・・

もともとパパイヤの独特の香りが苦手だった私。

コースト旅行に行き、マンゴーにまぎれて朝食のフルーツサラダとして
出された熟したパパイヤを食べていたら、少しだけど慣れてきた。

というわけで先日、市場で自ら進んでパパイヤを買ってみた。

買ってはみたもののやはり食べたい気が起きずに放っておいたら、
グニャグニャに軟らかくなり、皮に白カビがはえてきた。

これは早く食べないと、と思って切ってみると、オレンジがかった
ピンクというか、えも言えぬ微妙な色の果実があらわれた。

ご推察通り、熟していない。皮はカビ生えてるのに!!

結局食べずに捨ててしまった。ゴメンナサイ。

種と実が離れやすいから食べやすいという点ではマンゴーに
勝っているのだが、やはりパパイヤはどうも好きになれない。

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火事

旅行から帰って来るなり、公園は火事のニュースでもちきり。

1月から数件のボヤが報告されていたが、先週、周辺の畑から
公園に飛び移った火が大規模な火災に発展したらしい。

レンジャーたちは、 連日夜中の3時、4時まで消火活動に
あたっていたとのこと。

消火作業がひととおり終わった今日、上司マダムZやレンジャー
とともに火事パトロールに出かけた。

湖東側の丘、シンバ・ヒルズに初めて連れて行ってもらった。

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丘から街方面(湖の反対側)に向かって、辺り一面焼け焦げて
真っ黒になっていた。見ると、車道(KWSの作業用オフロード)
のある所で火が止まっている。

道路がなかったら、火はさらに 燃え進んでいただろう。

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丘一帯は2008年にも火災が発生した地域。枝の中が空洞で、
燃えやすい樹種が優先しているそうだ。

木立の向こうにクロサイを見つけた(写真には写っていません)。

「僕たちのおうちはどこ?ごはんはどこ?」
焼け野原を歩くシマウマの群れを見つけた上司がセリフをかぶせる。

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湖のほとりまで降りて来たところで、木陰に炎が上がるを見つけ、
慌てて車を降りる。

「残り火だわ!水は持って来てる!?と聞く上司に
レンジャーは「持って来てません!」と答えた。

え???火事のパトロールに水を持って来てない???

「しょうがないわね、手で消すわよ!」

え???手???

上司はズンズンとやぶに入り、落ちていた枝をつかむと、炎を
上げるやぶに果敢に切りかかった。レンジャーと私もそれに従う。
火を細かく分散させて、最後はグリグリと地面に押し付けて消す。

周辺の地面には、乾燥したバッファローの糞が蓄積していて、
地面全体が熱をもっている。そういえばネパールではヤクの糞を
燃料としてストーブにくべていたっけ。草食動物の糞は植物の繊維
だらけなので乾燥させるとよく燃えるのだ。

運転手は、しつこくくすぶっている木片に飲みかけの500mlペット
ボトルの水をチョビチョビとかけていた。

・・・なんだかな・・・もう・・・

どうして今回の火事を消すのに4日間もかかったかを理解できた。

しばらく行くと、次は巨大な切り株が煙を上げているのを発見。

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今度こそ水がないと手に負えないと判断し、メイン・オフィスに応援を頼む。
しかし15分以上たっても音沙汰がない。しびれを切らした上司が再びメイン・
オフィスに連絡をとると、「レンジャーたちは夜勤に備えて休憩中だから今は
行けない」とのこと。

・・・えー?・・・

仕方なく別のオフィスに水をもらいに行ったものの、今度はそこのオフィスの
長に、水タンクの貸し出しを断られた。

・・もう言葉がない・・

近隣住民からの借り物だという20リットルのタンクを2つだけ貸してもらって
現場に戻る。公園内にあるLake Nakuru Lodgeの職員も、仕事帰りに
駆けつけてくれた。人手はあるものの、肝心の水は100リットルほどしか
なかった。あるだけの水をバケツリレーして消火。

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「やれるだけのことはやったわ。」上司とともに夜8時に帰宅。

モノがないのは仕方がないと思えるが、ヒトについても、ケニア
らしさ、途上国らしさをつくづくと感じた一件だった。